経営者が語る企業価値のリアル


ここ数日、アメリカ発コワーキングスペース WeWorkを運営するWeCompanyの企業価値を巡り、原因となったソフトバンク及び、その運営投資ファンドに注目が集まっています。

企業価値の設定は、売買が成立すれば、基本自由

企業価値は、上場企業の場合、株式時価総額と言い換えることができます(正確ではないですが、近いです。)。

マーケットが決める価値が、その企業の価値。

非上場のクローズドな企業の場合、マーケットは、当事者と、買い手の2者間合意によるものなので、

極端な話、

500円くらいの価値しかない債務超過で赤字垂れ流しまくりの企業に、500億円払うといえば、500億円の価値が、その企業に与えられるわけです。

今回のWeWorkの企業価値問題も、ソフトバンク社側が、実態から大幅に企業価値をつりあげ、上場時に有利に販売できるようにしたことが原因でした。

そもそも、こうしたソフトバンク社が行うような釣り上げ手法は、ベンチャー界隈ではよく行われる手法です。

(VC(ベンチャーキャピタル)が投資をし、その後、VCが審査員を務める企業コンテストで、賞をとらせ、実態以上に企業価値をあげ、2nd stageをアップラウンドで通す。など。)

端的に言えば、企業価値は、条件によって変わりやすい、水物です。

営業がうまいイケイケの社長の場合、

口八丁手八丁で、

売上もろくに立っていない、

ただ会社を作った状態で、数億から数十億円の値段で会社売却や、資本増資できることもあります。

逆に、ナイーブな社長の場合、

とんでもなく悪い条件で、会社売ってしまうこともあります・・・。

スタートアップ時期の無茶なお誘い

私の時もそうでしたが、若い人が会社設立をし、事業を上手くまわしているようになると、有象無象、色々なオファーがきます。

私は最初、個人事業主として、ECOMオンライン語学レッスンサービスを始めて、売上が一定の規模になって、

銀行さんから、

個人のママでなく、法人設立していきましょう。

と提案されたので、法人成りで会社設立となりました。

最初に、まず資本金300万円で、個人事業主会社Ecommunication.incから、株式会社イーコミュニケーションに移行をしようとしていたところ、知り合いの知り合いといった、素性も全然わからない個人投資家の方から、

100万”融資”してあげるから、株式を3分の1持たせてくれ。

いったオファーや、

資本金を1000万に増資した後、しばらく運営していた頃、

成長中のECOMに興味があるから入社したい。

株をもった方が、やる気がでる。

御社の資本金が1000万なので、その半分の500万、個人的に出資して入社するから、会社の株式の50%をもちたい。

共同代表取締役とかは求めず、代表は譲り、サポートに徹するので、普通の役付きの取締役として迎えてもらいたい

といったオファーなどが、かつてありました。

売上も収益も何もたっていない、やることも決まっていない箱だけ企業ならまだしも、

私の会社は、売上も、利益もきちんと立って、

オンライン語学レッスンサービスという、ビジネスモデルの仕組みができている状態でした。

その状態で、資本金の額面どおりに企業価値を評価し、株式をもらいたいというオファーは、

当時、20代と若かった自分であっても、唖然とした記憶が残っています。

変なデューデリジェンス

基本、プレスリリースなどで会社・サービスが注目されると、

必ずと言っていいほど、

VCや、事業会社からの、出資、買収のオファーが出てきます。

当社にも、10社くらいのVCが来ていました。

VCの場合、直接来社され一度面談となりますが、

事業会社の場合、帝国データバンクなどから、別途調査依頼がかかったり、直接先方からオファーをもらったり、M&A仲介会社を通してオファーをもらうこともあります。

その際、デューデリという、DCFなどで企業価値を計算する作業があるのですが、

気になったのが、それはないでしょ!、

という企業価値評価のオファーでした。

慣れているVCさんや事業会社さんではそんなことはないのですが、

慣れていない?黒い?事業会社さんなどで、

むこうから買いたいと言ってきているのに、

『企業評価額は、経常利益額の3年分。これに純資産加えたもの

と言われれたことがありました。

・・・・・

うーーーーん。

デューデリジェンスの仕方は、それぞれ、その企業の自由ですし、

提示するのは無料で、少しでも安い金額で、買い叩きたいという気持ちはわかります。

ただ、M&Aが専門でもない自分が、あまり断定的に言えませんが、

一般的にDCF法でも、経常利益の5年分と、5年目以降は、”継続価値”という形で評価計上し、

そこに、さらにブランド価値などのプレミアムをのっけるのが普通だと思っています。

少なくとも、”経常利益3年分だけ”で企業価値を出すなら、

3年後に、その会社の価値は0になると判断されているようなものです。

でしたので、その時は、

『御社は、潰れかけの会社をお探しなのですか?』

と聞いてみたのですが、

『いえいえ、業界で伸びている会社を手に入れたいと思っていますよ』

と返ってきたので、

えぇー?!

と驚いてしまったことがありました。

少なくとも、経常利益3年分なんて、楽しく仕事している自分からすると、時間の過ぎるのも早く、あっという間に返ってくる金額では?

と思った次第でした。

安定収益のサブスク型企業か否か?

ただ、改めて思うに、

その企業価値を図る上で、その企業の収益構造(ビジネスモデル)も重要だなと思いました。

うちの会社(ECOM)のように、

生徒様が固定で毎月継続されていく、いわゆるサブスクリプション型モデルの場合、数年先の収益見通しも立ちやすいです。

加えて、生徒様、講師をうまく管理する「学習管理システム」もできあがっており、

経営者は、あまり手を加えなくても、日々の業務がまわっていく状態の会社。

おそらく、固定客のいるサーバー会社や、携帯電話会社などにも同じことが言えると思います。

一方で、

営業会社や、飲食店など、

固定で、毎月課金が入ってくるのではなく、

新規でお客を常に獲得して、売上をあげていく非サブスク企業の場合。

この場合、数年先の収益見通しも不確定だし、経営者が動きをとめれば、売上・利益も下がるという状態。

後者のようなフロー型ビジネスモデルの場合、売却に、経常利益の3,4年というのは、まぁ多少は理解できます。

しかし、当社のようなストック型のサブスクリプションモデルの場合、違う尺度で評価をしないと、売買収の際の合意に齟齬が生じてしまいます。

サブスク型企業は、不動産の評価価値くらいは最低限ある

不動産があると、大家として、家賃収入が入ります。

それとあわせて、不動産価値が上昇すれば、資産価格が上昇します。

例えば、賃貸収益の表面利回り4%(実質利回り3%)とすると、

1000万の年間家賃収入(月80万くらいの家賃)

であるマンションの資産価格は、ざっと3億円くらいと見積もれます。

この3億円の賃貸マンションをもっているオーナーは、

年間1000万円の営業利益を得ていると考えると、

それと同じように、

平均年間営業利益1000万のサブスク型企業は、そのビジネスモデルに3億円の価値があると、一つの目安としてとらえてよいと私は思っています。

*役員報酬を自由に決められる100%オーナー企業であれば、営業利益額に代取の役員報酬を加えてもいいと思います。

すなわち、役員報酬1000万、平均営業利益1000万なら、それを生み出しているサブスクリプション型企業には、少なくとも6億円の価値があると。

(ブランド価値、特許、純資産があれば、それらもプラス計上。)

安定的に見えるサブスク型企業だって、不祥事で、急に売上が下がることだってあるはずだ!

という意見があるかもしれないですが、

不動産だって、突然、事故物件になって、賃貸に出せなくなるリスクだってあります。

もちろん、会社の価値は、実際に売買されて正式につくものです。

ですので、いくら私が、これくらいの企業価値だと思う。

と述べたところで、実態に反映されるのは、売買後になります。

ただ、世の中には、あまりにも実態から離れた高価格で、企業価値が評価される一方、

非常識な低価格で、会社を売ってしまう人もいるわけで、

こうした私の考えが、1つの参考資料となれば幸いだと思って、今回書きました。

非サブスク型企業の場合、企業価値はよくわかりませんが、

うちのようなサブスク型企業の駆け出しベンチャー企業には、参考にしてもらえればと思っています。

おまけ

利益が赤字の場合、DCF法で評価するとマイナスになってしまいますので、売上を拡大させていって、プレゼンのうまさと、その時の市況で、なんとなくの値付けになるのでしょう。


About 成田 勝行

株式会社イーコミュニケーション代表取締役社長。 慶應義塾大学総合政策学部(SFC)卒業後、世界最大のコンサルティング会社Accentureに新卒入社。退社後、暫くダンス活動(Ballet, Jazz, Hiphop, House, Break'in)に専念。2005年イーコミュニケーション創業。 趣味は、経済ウォッチングと言語習得。 踊れて、経済が語れる、経営者という領域で、世界一を密かに目指す。

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